フクロモモンガ

フクロモモンガは飛膜を持ち外観は他のモモンガと非常によく似ているものの分類上は、コアラやカンガルーなどと同じ有袋類に属する動物で、げっ歯目リス科に属するアメリカモモンガやタイリクモモンガとは分類的に異なる動物です。

フクロモモンガはアメリカなど海外でも愛玩目的で飼育され、食事管理についても色々な情報があります。しかし、日本ではいまだ十分な情報があるとは言えず、他のモモンガとは食性が異なるため飼育下で栄養性疾患に罹患し動物病院にしばしば来院する動物です。

ここでは、日本のフクロモモンガが栄養性疾患に罹患するのを少しでも防げるように食事管理について御紹介します。

野生での食べ物

野生のフクロモモンガの雄は体重115-160g、雌は95-135gと報告されています。
野生下のフクロモモンガは雑食性の動物で、昆虫食傾向が強く、様々な昆虫や昆虫の幼虫、クモなどの節足動物、時には爬虫類や鳥の雛、卵や小型の哺乳類などを食べることが確認されています。その他、ユーカリやアカシアなどの樹液や樹脂、その他の植物からの浸出液、花蜜、花粉や花などの植物性のものやマナ(糖を含む木の分泌物やタマカイガラムシの甘い分泌物)も食べますが、これら植物性のものは主に雨季(冬期)に食べると報告されています。栄養学的には、昆虫類はタンパク質含量が多く、植物の浸出液は糖分含量が多いとされていますが、昆虫類の正確な栄養成分はわかっていません。

フクロモモンガの下顎切歯(前歯)は木の皮を剥き樹脂や樹液を得るために過長しています。また、前足の第四指は樹の割れ目などに潜んでいる虫を掻き出すために過長していると考えられています。
さらに、フクロモモンガは樹脂に含まれている多糖類を微生物の発酵により利用するため大きな盲腸を持っています。

フクロモモンガの下顎切歯

フクロモモンガの下顎切歯

フクロモモンガの前足の指

フクロモモンガの前足の指

フクロモモンガの飼育書には果物や野菜、ナッツ類、穀類、種子類を与えることが記載されており、実際、飼育下のフクロモモンガもこれらの食事を受け入れますが、野生ではこれらの食べ物が食事に占める割合は低く本来の食事とは異なることを覚えておかなければなりません。

ある調査では、野生下のフクロモモンガは一日に182-229キロジュール(kj)のカロリーを消費していると報告されています。この値は水分を含んだ食物重量で体重の約17%に相当しますが、飼育下では野生下に比べて運動量が少なく食事も容易に摂取できるため、飼育下でのカロリーはこれ以下にするべきであると考えられています。

飼育下での食べ物

フクロモモンガは昆虫食傾向が強い雑食性の動物であり、飼育下での食事はタンパク質源と果糖や樹脂などの炭水化物源をそれぞれ50%程度給餌すると良いと報告されています。

具体的には、入手できる場合はフクロモモンガ専用フードや食虫目の動物用フード、入手できないようであれば高品質のキャットフードやモンキーフード、餌用昆虫、固ゆでした卵、ピンクマウス、赤身の肉など様々なものをタンパク質源として50%程度与えます。
さらに、花蜜、花粉、アカシアやユーカリ、アラビアゴムの樹脂などを利用できれば利用し、入手できない場合にはその代用として、メープルシロップ、蜂蜜、新鮮な果汁やローリー用の餌(ローリー;ヒインコなどの果実性食の鳥のこと)などを炭水化物源として50%程度与えます。また、花蜜や樹液、樹脂の代替食として、Leadbear’s mixtureと呼ばれる自家製の餌(作り方は下記参照)が海外の動物園や愛好家の間ではよく利用されています。

メープルシロップは樹脂の代わりに利用することができ、蜂蜜に比べてミネラル成分などがより豊富に含まれています。与え方として、市販のシロップを水で半分程度に薄めて毎日新しいものと交換して飲水ボトルなどから与える方法が報告されています。
注意点としてメープルシロップは気温が高い場合には容器内で発酵することがあるので夏季などには一日に二回は取り替えなければなりません。

その他、花蜜や樹液の代用として、ブラウンシュガー1.5カップ、グルコース0.5カップをお湯2リットルに混ぜて作成するフードや、ロールドオーツ1カップ、小麦胚芽1/4カップ、ブラウンシュガー1/4、グルコースパウダー小さじ一杯、レーズン小さじ一杯で作るフードなども報告されています。

上記以外には、刻んだ果物や野菜、ナッツ類や種子類、栄養状態を改善した餌用昆虫などをおやつとして少量づつ(食餌中の5-15%以下)与えます。
飼育下のフクロモモンガは、果物、野菜やナッツ類、種子類など様々な種類の餌を受け入れ、防腐剤の入っていない果物ジュースや裏ごししたベビーフードなども与えることができます。

実際、葉野菜は繊維やある種のビタミンの供給源となり、市販の飼育書にも果物や野菜を主体とした食事内容が紹介されています。
しかし、本来野生下のフクロモモンガの食事に占めるこれらの野菜や果物の割合は低いことが確認されているため、これらを与える際には与える量を全体の食事に占める割合が10%以下になるように制限したほうが賢明だと思われます。

エサの与え方

フクロモモンガは夜行性のため食事は夕方から夜にかけて与えます。
また、本来、樹上棲動物のため餌入れや水入れはケージの底ではなくケージの高い部分に設置する方が良いと思われます。
餌は腐敗しやすいものが多いため特に夏季などには衛生面での注意も必要となり常に新鮮な食事と水を毎日与えます。

おやつとして与える、ナッツや種子類、餌用昆虫などをケージ内に隠しておくことで、環境エンリッチメントとしての効果が期待できます。
さらに、アカシアやユーカリの枝が入手できれば野生での行動を刺激し、これらの枝にドリルで穴をあけ樹脂や餌を隠すことで本来の採食行動を誘発することもできます。

嗜好性に偏りがあり、決まったものしか食べなくなってしまった個体に対しては少量のビタミン/ミネラルサプリメントを毎日餌にまぶしてから与えることができます。
現時点で、フクロモモンガに推奨されるビタミンやミネラルは、カルシウム1%、リン0.5%、ビタミンD1500IU/kg(それぞれ乾燥重量比)であると報告されています。
嗜好性に偏りがなくても、フクロモモンガは代謝性骨疾患に罹患することが多いため、繁殖期や授乳期にはカルシウム剤を追加したほうがよいこともあります。

栄養性疾患

他のエキゾチック動物同様、フクロモモンガも飼養管理不全による様々な疾患がみられます。
栄養性疾患として、肥満、白内障や代謝性骨疾患、低タンパク血症、貧血などがあります。これらの多くは前述したように果物、野菜、ナッツ類や種子類など本来の主食ではないものを主食として与え続けることが疾患の一因となっています。

兄弟で白内障がみられたフクロモモンガ

フクロモモンガの下顎切歯

代謝性骨疾患のための多発性骨折

フクロモモンガの前足の指

肥満は食事中の脂質やタンパク質含量、食事の量自体が多く運動不足が原因で起こります。ヒトや他の動物と同様、肥満は心疾患や肝疾患の原因となることもあるため、肥満個体には食事内容や量の変更、運動をさせるなどの対処が必要になります。

代謝性骨疾患や低カルシウム血症は食事中のカルシウム,リンやビタミンDの不適切な含量が原因となり生じます。爬虫類やサル類では紫外線不足も一因となることが報告されていますが、本来夜行性であるフクロモモンガでの紫外線の必要性に関する十分な評価はされていません。
主な症状としては後足や四肢の不全麻痺や麻痺がみられ、重篤な場合には筋肉の痙攣などがみられることもあります。

フクロモモンガでは、若齢時に白内障や眼球への脂質の沈着がみられることがあり、兄弟で発症することもあります。
フクロモモンガの若齢時の白内障や脂質の沈着は母親に対する不適切な食事内容が原因であると考えられています。
具体的には脂肪分や糖分の多い食事を長期間与えられている親から白内障に罹患した子が生まれると報告されていますが、その他、ビタミンA の欠乏、遺伝、育児嚢内での感染なども若齢時の白内障の原因に関与している可能性が考えられており詳細は解明されていません。

貧血や低タンパク血症は不適切な食事内容による食事中のタンパク質源の不足によりみられます。
その他、柔らかい食べ物や炭水化物の多い食べ物を与えられている場合には歯周病や歯石の蓄積などがみられることもあります。

Leadbeater’s mixtureの作り方
材料
・お湯 150ml
・ハチミツ 150ml
・固ゆでにした殻付き卵 1個
・高タンパク質ベビーフード 25g(ベビーシリアル)
・ビタミン/ミネラルサプリメント 小さじ1杯

作り方
1. お湯とハチミツを混ぜる
2. 別の容器で卵を粉々になるまでつぶす
3. つぶした卵に、徐々に混ざったお湯とハチミツを加え、ビタミン剤、ベビーシリアルを加え撹拌する。
4. 製氷皿に小分けにし、与えるまでは冷蔵もしくは冷凍保存する。

フクロモモンガの理想の食事は色々な物を少しづつ与えることです。
しかし、ただ混ぜるだけでは好きな物を選んで食べてしまうだけです。
Leadberter’s mixtureのようにミキサーなどで色々な物を混ぜ合わせ嗜好性の高い味付けをするか、ドッグフードやフェレットフードなどの総合栄養食を餌の一部として利用することもできます。

どうしても偏ったものしか食べない場合には、鳥や小動物、爬虫類用に市販されている総合ビタミン剤やカルシウム剤を餌や飲水内に混ぜることもできます。

ペニス脱

フクロモモンガをはじめ、有袋類は他の哺乳類とは解剖学的に大きな違いがいくつかあります。その一つがペニス(陰茎)の形と陰嚢の位置です。ほとんどの哺乳類のペニスは陰嚢より頭側にありますが、フクロモモンガでは陰嚢の方がペニスよりも頭側にあります。
また、ほとんどの哺乳類はペニスを一本しか持っていませんが、フクロモモンガのペニスは先端が二つに分かれてまるで2本のペニスを持っているように見えます。
このため、フクロモモンガの雌の膣の構造も他の動物とは大きく異なっています。

雄のフクロモモンガはペニスを出したり引っ込めたりすることがよくあります。
このとき何らかの理由でペニスがもとに戻らなくなるとフクロモモンガ自身が気にして舐めたりかじったりしてしまいます。
初期の段階であれば元に戻すことも可能ですが、赤黒く腫れ上がったり、真黒に壊死したりしてしまうとペニスの先端部を切除しなければいけません。
ペニスが出っぱなしになって、気にして舐めたりかじったりしている場合にはできるだけ早くフクロモモンガの診察が可能な動物病院で診てもらいましょう。

爪切り

野生では木の幹にしがみついたりするためにもともとフクロモモンガの爪の先端は鋭くとがっています。
ほとんどの場合、フクロモモンガの爪を切る必要はありません。
しかし、人と一緒に生活する場合には腕や背中にしがみつかれると人が痛みを感じたり、人の皮膚に傷がついてしまったりすることがあります。
また、タオルや布、カーテンなどに鋭い爪の先が引っ掛かってしまい、さらに足の指などにも糸状になった線維がからみついてしまうことがしばしばあります。最悪の場合には指を切断しなければいけなくなります。

このようなことを防止する目的や病的に爪が伸びた場合にはフクロモモンガの爪を切ることがあります。
慣れているフクロモモンガでもつかまれるとジージー鳴いて抵抗し、フクロモモンガの爪にも犬猫と同様に血管や神経が走っています。このため、最初は動物病院で爪の切り方を教わり、自宅でできるようであれば自宅で行いましょう。