ウサギの歯科疾患
不正咬合
ウサギやプレーリードッグ、ハムスターの歯はヒトの歯と違い一生伸び続けます。
しかし、もっと細かくみていくとウサギが属する重歯目とモルモットやチンチラが属するげっ歯目のヤマアラシ亜目の動物では切歯(前歯)と臼歯(奥歯)がともに伸び続けるのに対して、げっ歯目に属するプレーリードッグやハムスターなどでは切歯のみが伸び続けるという大きな違いがあります(図1)。
図1 歯の伸び方の動物種による違い
このためウサギやげっ歯類では歯に関連した問題が非常に多く見られますが、プレーリードッグやハムスターと違いウサギの場合には目で見える切歯の異常だけではなく臼歯の異常にも注意しなければいけません。
歯の疾患として一番多くみられるものは不正咬合と呼ばれる疾患です。
不正咬合は歯の咬み合わせがずれてしまい本来なら咬み合せにより日々すり減っていく歯がどんどん伸びていき様々な問題が引き起こされます。
不正咬合は切歯と臼歯のどちらでもみられ、切歯と臼歯が同時に不正咬合になっていることも珍しくありません。
症状
初期の不正咬合では、物がうまく噛み切れない、咀嚼できないなどの症状がみられます。
さらに進行すると、次第に過長した歯が頬粘膜や舌を刺激し炎症やよだれの原因となったり、よりひどい場合には頬粘膜や舌に過長した歯が棘のように突き刺さり大きな穴を開けてしまうこともあります(写真1,2)。
写真1 切歯の不正咬合
両上顎の切歯が過長し、
頬に突き刺さっていました。
写真2 臼歯の不正咬合
棘状に過長した臼歯が舌に
突き刺さっているのがわかります。
ウサギの性格にもよりますが、神経質なウサギでは頬粘膜や舌が刺激されただけで食べ物に対する好みが変わったり、食欲がなくなったりする一方、ひどい不正咬合で歯が頬粘膜や舌に突き刺さっているにもかかわらず食欲がほとんど落ちない場合もあります。
ウサギは正常であれば常に食べ続けているため食べ物を食べられないことによる影響が出やすく、不正咬合による食欲不振が他の消化器疾患や全身状態の異常の原因となる可能性が高くできるだけ早期の積極的な治療が必要です。
■切歯の不正咬合
- 牧草をうまく食べられない、食べ物を落とす、給水ボトルからうまく水が飲めない(初期)
- 食欲が落ちてきた、歯が頬に突き刺さったりすることによる流涎
切歯は自宅でも注意深く観察すれば異常が確認できるため、歯の並び方がおかしい、歯が異常に伸びていることを主訴に来院されることもよくあります。
■臼歯の不正咬合
- 食欲が落ちた、食餌の好みが変わった、口をくちゃくちゃしている
- 糞の大きさが小さくなった、糞の数が少なくなった
- なんとなく元気がない、よだれがみられる、など
臼歯の異常は自宅で確認することはほとんど不可能で、上記の症状を主訴に来院し動物病院で臼歯の異常が確認されることがほとんどです。
治療
通常、歯の不正咬合がある場合、切歯の場合は3~4週間に1回くらい、臼歯の場合は1ヵ月から数ヵ月に1回くらいの定期的な歯科処置が必要になることがほとんどです。
歯科処置が必要になる頻度は、不正咬合の程度や歯の健康状態、ウサギの年齢などによって様々です。
しかし、多くの場合は毎回同じくらいの間隔で必要になるため、獣医師と相談し、定期的な検診を行ないできるだけ食欲不振の時期が短くなるように注意する必要があります。
草食動物であるウサギは常に消化管内に食べ物が入っており消化管も運動をし続けています。このため原因に関わらず、食欲不振が続くとすぐに消化器疾患に陥り全身状態が低下してしまいます。
また、不正咬合の多くは歯科処置をすることで改善しますが、棘のようになった歯が頬粘膜や舌を刺激したり、刺入して痛みを伴っていることを考えるとできるだけ早く治療を行なうことの大切さがわかると思います。
また、臼歯の歯科処置を行なう際には麻酔や鎮静が必要となることもあり、全身状態が悪化している場合には麻酔や鎮静によるリスクもより高くなる危険性があります。
一度、歯に問題が起きたウサギの飼い主は、食欲の低下や糞の大きさ、数の変化、食餌の好みの変化、口をくちゃくちゃしていないか、よだれで口の周りが濡れていないかなどを注意深く観察し異常がみられる場合には早めに動物病院を受診することが大切です。
食欲が低下しているにもかかわらず、すぐに動物病院を受診できない場合には、ペレットをふやかして与えたりシリンジを用いて強制給餌を行なうなどの処置が必要となることもあるため、事前に動物病院でやり方などを習っておくことも大切です。
予防
不正咬合の原因は外傷、食餌の関与、遺伝、感染、老化によるものなどが考えられています。このうち最も一般的な原因は外傷です。具体的な外傷としては、暴れてケージなどで顔面を強打したり、落下して歯を折ったりすることもありますが、ケージをかじり手前に強く引く動作を繰り返すことで歯根部に傷害が生じることもあります。
もう一つの大きな原因として食餌の関与が疑われています。これは本来、牧草などの奥歯で何度もすりつぶさなくては食べられない食事を取っているウサギが、すでにすりつぶして固めてあるペレットを主食にしてしまい奥歯ですりつぶすのではなく噛み砕く食べ方に変わってきたためであると考えられています。
これら二つの要因に関しては、ウサギを驚かせたり高い所に登らせない、ケージの網を噛めないように内張りしたりケージを変えるなどの工夫をする、おやつやペレットの量を制限するなどして牧草を十分に食べさせるようにすることで予防することができます。
また、切歯の不正咬合や臼歯の不正咬合をそのままの状態にしておくと、正常であった切歯や臼歯まで不正咬合に陥ることがあるため不正咬合の悪化を防ぐためには早期の治療も予防の一つになります。
その他の歯科疾患
不正咬合以外の歯科疾患として歯や歯根に関連して膿が溜まる膿瘍や涙が多くなる流涙症などがみられます。歯根が原因で顔面に発生する膿瘍はよくみられますが、治療に長期間かかったり、再発を繰りかえすなど完全に治療することが非常に難しい疾患です(写真3)。
また、歯根部が関係した流涙症は切歯の歯根部が鼻涙管と呼ばれる涙の通り道を圧迫してしまい涙が目から溢れ出す疾患で、放っておくと目頭の被毛が脱毛したり鼻炎や結膜炎の原因となることもあります(写真4)。
写真3
臼歯の歯根部が原因で
下顎に発生した膿瘍
写真4
鼻涙管が閉塞して流涙症となり
脱毛や目やにもみられます。
ウサギでは犬や猫でみられるような歯周病がみられることはまれです。
症状
歯根に関連した膿瘍では下顎や頬などにしこりができてきたり、顔が腫れてきたり、片目が飛び出してきたりするなどの症状がみらます。
また、歯根が関連した流涙症では涙が多くなり常に目頭が濡れている、目頭の部分に脱毛がみられるなどの症状がみられます。
通常、初期には目やになどその他の目の症状はみられませんが、慢性化すると白い目やにが出たり、鼻炎症状がみられることもあります(写真4)。
歯根に関連した膿瘍や流涙症は慢性化することも多く、治療には根気が必要です。
いずれの疾患も早期発見により積極的に治療していくことでより高い治療効果が期待できるため、異常が疑われる場合には早めに動物病院を受診することをお勧めします。